つなぎを使わず蕎麦粉だけで作る“十割そば”というのは、打つのも茹でるのも、とても技術が必要なんだそうです。
特に茹でるのがなかなか難しいらしく、うっかりするとブツブツぼろぼろと切れてしまうんだとか。これは蕎麦粉のたんぱく質が水を加えても粘りが出ないためらしいです。そこで、つなぎとして“粘りの素”グルテンに変化するたんぱく質を含む小麦粉を使って、生成した形を維持しやすくした、いわゆる“二八そば”や“七三そば”などが一般的に出回っているわけですが、蕎麦粉自体はお湯を注いでかき混ぜる?だけで口に出来る“そばがき”なんて食べ方があるくらい、長く茹でる必要のない食材。逆に、小麦粉はしっかり茹でないと消化に悪い食べ物・・・。つまり、つなぎを使った蕎麦を生煮えじゃなくお腹に優しい状態で提供するためには、蕎麦粉の適正茹で時間は当然超えてしまうわけです。ということは、蕎麦粉のうまみや風味を最大限に引き出すには、やっぱり十割そばが最適ってこと?
ただ、つなぎ無しの十割そばは、モノによっては口当たりがボソボソしたりして万人受けしないとも聞きますし、二八そばくらいが喉越しが良くて美味しいと言う声もあります。
十割そばと二八そば、どう違うんだろう?あんまり気にして食べたことは無かったけれど、こういうことを聞くと急に食べ比べてみたくなるなぁ・・・なんて思ってはみたものの、この“十割そば”を扱っているお店自体がなかなか見当たらない!八千代市内には“やちよ蕎麦の会”があるくらい、蕎麦屋さんの数は結構あるんですが、ようやく見つけたのはわずか1軒のみ。
しかも毎日限定10食!
そんな貴重な十割そばを食しに、勝田台駅南口方面にある手打ち蕎麦「松屋」さんを訪れました。

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いかにも蕎麦屋さんらしい昔ながらの店構え。のれんをくぐると、すぐ左手にはガラス越しに手打ちコーナーがあり、正面には厨房とレジが、右手に伸びる通路を挟んだ左右にテーブル席と座敷が並んでいました。片側が長椅子になっている4人掛けのテーブルが5卓、4~5人で囲める座敷が2つと、決して広くはないながらも、天井が割と高めなせいか、圧迫感はなく逆に落ち着いた雰囲気です。
鰹節っぽいそばつゆの良い香りが立ち込める店内、各席には上からぼんぼり?がぶら下がり、年季の入った柱や壁紙、外観同様趣きのある和風な造り・・・なのに流れてくるBGMは朝のホテルのロビー?と思ってしまうような洋風チックなイントロ。

さてさて、気になる十割そばは・・・あった!
十割そば(並)800円、これを今日は食べにきたのよ。“こだわりの手打ち”と書かれていますが、どうやらこちらのお店は石臼挽きで用意した自家製粉の蕎麦粉を、入口左のコーナーで手打ちしているようです。さらに、“当店のそばつゆは化学調味料を一切使用しない自然食です”とあり、かなり食材にこだわっている様子・・・。
おすすめのメニューを伺ったご主人から、こんなお話を耳にしました。
「蕎麦はね、最近の食材には珍しいとっても安全な食べ物なんですよ。米や麦なんかは風媒花だけど、蕎麦は媒虫花だから蝶やミツバチといった昆虫の力を借りないと受粉できませんからね。農薬を使うと昆虫が死んじゃいますでしょ?だからどこで作っても蕎麦だけは無農薬で栽培されてるんです。
栄養面でも優れているし、食の安全ということからももっと蕎麦を食べて欲しいと思っているんですよ。」

そんなご主人、“やちよ蕎麦の会”に所属しご自身でも蕎麦を栽培していらっしゃいまして、普段は北海道産の蕎麦を仕入れているそうですが、今月12月8日から3日間(12月8日(金)、9日(土)、10日(日))と、年末31日は八千代産の新そばをお店で提供されるんだとか!
八千代市内でも何店舗かで販売されますが、剥き身(蕎麦の殻を取った状態)で仕入れてお店の石臼で挽いた蕎麦が食べれるのは、松屋さんを含めても数店舗のみ。八千代の新そばで年越し・・・なんて、オツだわね。
ちなみに蕎麦を持ち帰り用に販売はされないとのことでした。

話がかなり脱線しましたが、おすすめメニューを伺ったところ「最近はよく鴨せいろが出てますねぇ。蕎麦好きな人はあんまり油っこいのは選ばないんだけれど、やっぱり若い人は脂っけが欲しくなりますからね。」とのことでした。
鴨せいろ?
先日、成田街道沿いのコアラマークが気になって入った蕎麦レストラン「セイジ」で初めて注文しましたが(そのときのレポートはこちら)、結構ポピュラーなメニューだったんだ!
私もなび夫さんも“脂欲しい世代”ということで・・・鴨せいろ(1,200円)をひとつ。

あと、メニューを見ていてとっても気になったのが“舞茸”シリーズ。
普通に海老やら野菜が揚げてある天ぷらそばはあるんですが、あえて単品の舞茸天ぷらが用意されていたり、舞茸天せいろ、天ざる・・・など、舞茸が妙にとりだたされてます。
なぜ舞茸?
「舞茸ねー、10年くらい前からやっているんですよ。え?特別な産地から取り寄せてるか?いやいや、普通にスーパーで買ってくるんですけどね。結構歯ごたえもあって美味しいでしょう。」

そんな、スーパーで買ってくるなんてバラさなくても・・・!その何とも言えない回答に惹かれ、ついつい舞茸天せいろ(1,200円)もチョイス。はじめザルにしようとしたんですが、「いやいや、ザルは海苔がかかるからせいろがいいね。海苔はいらないよ、海苔は。」と待ったがかかったので、海苔分安いせいろに転向。

ちなみに、鴨せいろも舞茸天せいろも、両方二八そばでお願いしました。どのお蕎麦も100円増しで十割そばへ変更できるそうですが、これは冷たいメニューに限ります。温かいかけタイプだと、そばがくしゃくしゃになってしまうんだとか。

しばらくして、一番気になっていた十割そばが到着!

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見た目しっとりしていて、そばが気持ち太めな印象です。ご主人が「食感を良くするために、蕎麦の真ん中を使って粉にしている」とおっしゃっていましたが、外皮が入っていないせいか色合いも白めです。
口に含むとき、唇に当たる感じが一般的なお蕎麦より少しざらついた感じがありますが、ちっともボソボソした食感はなく、逆に歯ごたえがしっかり。まずはつゆを使わずに戴きましたが、そばにほんのり甘みがあり、そこまで強くは無いですが蕎麦独特の風味が鼻へ伝う、かなり上品なお味。

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そばつゆは、鰹節ベースの甘さのないしょっぱめタイプです。蕎麦自体やさしい印象なので、甘みのないキリっとしたつゆが好相性!量は少なからず多すぎずといった感じですが、大盛りは200円増しで出来るそうです。

十割そばと比較したい、二八そばの先行は舞茸天せいろ。思いのほか盛りの良い舞茸に、おー!と、つい声を上げてしましました。

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本当にスーパーで買ってきたんですか?と思いたくなるような、大ぶり・肉厚そうな舞茸が5~6個と、しし唐がひとつ揚げてあります。その隣には、先ほどの十割そばより見た目ツヤツヤしていて、若干細めの二八そばがお目見え。やっぱりこちらの蕎麦も、外皮が含まれてないので白っぽいような、クリーム色っぽいような感じです。

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確かに喉越しというか、口当たりがツルッとしているのは二八そばの方です。噛んだときの弾力も、こちらの蕎麦が若干強いような気もします。
ですが、やっぱり蕎麦の風味がより強く感じられるのは、十割そばでしょうか。単品で食べていたら恐らくあまり差が感じられないと思いますが、逆にそれだけ十割そばで二八そば位の食感を再現できるというのは、すごい技術なんじゃ・・・?

舞茸は、割と薄衣タイプで周りパリパリ、中ジューシーな丁度良い揚げ加減。この独特の歯ざわりと香りが、強調しすぎない上品な蕎麦の風味と喧嘩せず、逆にアクセントになってすごくよく合います!
さすが10年続いているだけあって、舞茸はベストチョイスですわね。

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最後に運ばれてきたのが、冷たい二八そばをアツアツのお汁でいただく鴨せいろ。ふーっと柚子の香りが漂います。斜め切りにした長ネギ、しめじ、三つ葉に、一口サイズの半分くらいにカットされた鴨肉が、具だくさんに入っています。鴨は合鴨を使っているそうですが、かなり鉄分風味がしっかりしている赤身タイプ。汁は鰹ダシの効いた醤油味で、甘みがあまり無く塩気強めの濃い味です。脂はわりと控えめ、柚子が利いているせいか風味は東京のお雑煮を彷彿とさせるような感じで、同じ鴨せいろでもお店によって随分違った印象に。ラーメン食べ歩きじゃないですが、“鴨せいろ食べ歩き”をしたらかなり面白いかも・・・。
この鴨せいろ、そばをしっかり汁に沈めて、具と一緒に食べるのをおすすめします!だんだん汁の濃さが調整されて、最後の方は塩気も丁度よくそのままスープとして頂けるほどに。シメにここへそば湯を注すと、さらにまろやかなお味が楽しめました。
ちなみに、蕎麦に含まれるミネラル成分やビタミンB1、B2、さらに血液サラサラ成分としてお馴染みのルチンなどは、茹でるときに溶け出してしまうので、このそば湯もしっかり頂くのが良いらしいですよ。

しっかりお蕎麦を堪能した私となび夫さん。お腹も満足!さて、帰ろうか・・・と思った矢先、これからご主人が午後分の蕎麦を打つとのこと。折角なので、入口左の蕎麦打ちコーナーでご主人が打つ姿を、ガラス越しに見学させてもらうことにしました。

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既に蕎麦粉は捏ねてあるので、延ばしの工程からの見学になりました。
台に打ち粉を敷き、その上に1kgほどあるタネを置きます。さらに上からも打ち粉を振りかけてから、両手で体重を乗せながら周囲を時計回りに押し付けていきます。

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分厚いかたまりだったものが、十数回押し広げただけであっという間に倍ほどの直径に!

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さらに後ろに掛けてあっためん棒を一本持ち出し、薄く延ばしていきます。めん棒の扱い方も、単に手を手前にまっすぐ突き出すのではなく、イメージ的には“平泳ぎ”で水をかくような動作。シュッシュッとリズミカルに動かすと、どんどん生地は薄く均一に広がっていきます。

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ある程度広がってきたところで、生地を端からめん棒に巻き付け、また元に戻すという作業を何度か繰り返します。

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あれ?さっきまで楕円形だったはずなのに、いつの間にか生地が四角に変形している!しかも均一でキレイな薄さ、そして巻物のような整った形。
この工程まで、実はわずか数分の出来事です。

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もう一本めん棒を使って、巻いてない部分を左右前方に向かってさらに延ばしていきます。この作業に一番時間がかかっていまして、念入りに念入りに同じ動きを繰り返します。もう厚みが感じられず、すっかり和紙のよう・・・。

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かなり何度も繰り返しているので、ちょっぴり気がほかのことへ・・・。ガラスの下には、美味しそうな“手作り風”飴の袋が何種類もケースに並んでいます。結構大粒で13~14個位入っているのに110円!その横には、最近流行りの“韃靼そば茶”が650円で販売されています。

この飴、ちょっと美味しそうだなぁー、味が13種類もあるんだー!なんてよそ見してましたら、生地が出来上がっていた!

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横に広げて2つ折りにし、その上へ打ち粉を振りかけてから4つ折りに。几帳面に端を揃えて、さらに手前へ2つ折りして生地は完成です。

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大きなまな板の上に打ち粉をたっぷり敷き、その上に先ほど折りたたんだ生地を乗せて、小間板をずらしながら機械かと思うような精密さで切り分けていきます。50回ほど切ったところで蕎麦に付いた打ち粉をほど良く振り落として・・・

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あっという間に、見慣れた茹でる前の蕎麦完成!

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大体1kgのタネで、10人前程度が出来るそうです。
これを毎日何回も何回もやるんですから、もう目をつむっても出来ちゃいそう・・・。
「いやいや、毎日やっててもね、同じものは2度と作れないんですよ。日によって湿度やら粉の質やら違いますしね、その時の状態で水加減を調節したりして。蕎麦だけじゃないですよ、つゆ一つとっても、素材が魚相手ですからね。同じ種類の魚を使っていても、その魚がどこを泳いできたかで随分と脂の乗りや味わいが違ってきます。
ほら、先日サンマが北海道で大漁に打ちあがっていたでしょう?あれは海水の温度が1℃上がっただけでああなったみたいですけれど、たかが1℃でも魚にとってみれば死活問題だからね。食べ物相手の仕事は、ほんとに、ちっとも易しくないですよ。
技術もそうですが、素材に良いものを使うとやっぱり出来上がりも良いですね。素材が悪いと、いくら技術を磨いてもダメ!だからうちは、ダシも蕎麦粉も、上位にランクされている質の良いものを使ってるんですよ。
蕎麦打ちの入口は簡単!誰でも気軽に始められます。でも、こだわればこだわるほど、だんだん難しくなってきますね。」

そんなこだわりを見せる気さくなご主人に、なんと蕎麦打ちを教えてもらえる機会が月イチであるんです!
その日は午前中の営業を14時で切り上げ、店内のテーブルにて蕎麦打ち教室が開催されます。木鉢を持ってきて、粉と水を入れて・・・という捏ねるところから、先ほど見学していた切り分けるところまで体験でき、お店で一人前茹でたものを実食!一人5人前ずつ打つので、残り4人前の蕎麦はお土産として持ち帰ることができます。

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松屋さんで開催されるそば教室の開催日時は、店頭の看板に貼り出してあるそうなのでチェックしてみてくださいね!
ちなみに一番近い日程は次の通りです。

〔松屋さん 第16回手打ち蕎麦教室〕
日時:12月5日(火)14:00~16:30頃まで
料金:3,000円(税込み)
人数:5名(グループ、お一人様でも自由です)
持ち物:タオル、エプロン、頭にかぶるもの(三角巾など)
問い合わせ:TEL 047-485-0233
※打つのは二八そばです。
※試食後、各人が打った蕎麦はつゆ付きでお持ち帰りいただけます。
※詳しくは電話又は直接店頭までお問い合わせください。


毎月松屋さんで行われているものとは別に、千葉ガスさんとの共同イベントとして“千葉ガスリビング勝田台料理教室”でも時々ご主人が先生として蕎麦打ちを教えているそうです。
実は一番開催日の近いものは、11月30日で申し込みが締め切られてしまっているのですが・・・一応どういう感じかご紹介しておきます(次回の教室の問い合わせなどは、千葉ガスさんへお尋ねください)。

〔千葉ガスの体験教室 第5回手打ち蕎麦教室〕
※この回は、11月30日申し込みを終了しています。
日時:12月14日(木)10:30~13:30
開催場所:千葉ガスリビング勝田台料理教室
 八千代市勝田台7-26-13(地図)/TEL047-483-2754
受講料:3,000円(税込み)※つり銭が無いようにお願いします。
持ち物:タオル(手拭用)、エプロン、筆記用具、受講料
問い合わせ:TEL 0120-397700(千葉ガス㈱八千代支社 平日9:00~17:30)
※今回は八千代の新蕎麦で二八そばを作ります。
※参加された方には、松屋お食事券をプレゼント!
※食材を用意する関係上、10月27日以降キャンセルする場合はキャンセル料がかかります。
※申し込みは千葉ガスまで、電話にて参加される方全員の名前・住所・電話番号をお知らせください。ただし、応募者多数の場合はその後抽選となり、当選された方のみに案内状を送付します。

千葉ガスホームページ/http://www.chiba-gas.co.jp/hp/welcome/news.html

そうそう、最後にご主人からアドバイスしてもらった“蕎麦の美味しい食べ方”をご紹介しましょう。
「最初、つゆをつけずに2、3本つまんで、蕎麦そのものの風味を味わってもらい、その後つゆをつけて食べ始めるんです。食べ終わるまで15分以内!
蕎麦の命は15分なんです。蕎麦の風味や喉越しは、この時間に堪能しないとどんどん質が悪くなりますからね。うまい蕎麦を味わうためにも、おしゃべりは食べ終わってから!ですよ。」

今年もあと1ヶ月!
8日から3日間、あと年末31日に売り出すという八千代産の新そばで、年越しをしませんか?

●手打ち蕎麦 松屋 047-485-0233
千葉県八千代市勝田台3-3-43(地図)京成本線勝田台駅から徒歩15分
駐車場/有り(店隣に1~2台、200m先に3台)
営業時間/11:00~15:00(蕎麦教室がある場合は14:30まで)、17:00~20:30
定休日/木曜日
予約/可
出前/無し
※「やちよ蕎麦の会」松屋ページ/http://www.fagi.jp/soba/kakuten/matsuya/index.html